ローレンツ曲線とジニ係数
「格差」を視覚化するローレンツ曲線と、数値で測るジニ係数
できるようになること
- ローレンツ曲線を描き、所得分布の偏りを視覚的に読み取れる
- ジニ係数の意味を説明し、データから計算できる
- ジニ係数の限界を理解し、適切に解釈できる
「平均年収500万円」の2つの社会
ある社会Aでは全員が年収500万円です。社会Bでは、8割の人が年収200万円、2割の人が年収1700万円です。
どちらも平均は500万円ですが、社会Aは完全に均等、社会Bは極端に偏っています。
平均だけでは格差は見えません。「どれだけ不均等に分配されているか」を測る道具が必要です。
ローレンツ曲線とは
ローレンツ曲線(Lorenz curve)は、所得などの分配の不均等さをグラフで示す方法です。
作り方は次のとおりです。
- データを小さい順に並べる
- 横軸に「累積人口割合」(下位何%か)を取る
- 縦軸に「累積所得割合」(その人たちの所得合計が全体の何%か)を取る
- 各点をつないで曲線にする
もし全員の所得が同じなら、「下位20%の人が全所得の20%を、下位50%が50%を…」と、各点は対角線上に並びます。この対角線を完全平等線(45度線)と呼びます。
実際の社会では低所得者が多いため、曲線は完全平等線より下に膨らみます。膨らみが大きいほど、格差が大きいことを意味します。

例:5人のデータでローレンツ曲線を描く
5人の月収(万円)が 10, 20, 30, 40, 100 だったとします。合計は200万円です。
まず小さい順に並んでいることを確認し、累積値を計算します。
| 人 | 月収(万円) | 累積人口割合 | 所得割合 | 累積所得割合 | 累積所得割合(小数) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1人目 | 10 | 20% | 5% | 5% | 0.05 |
| 2人目 | 20 | 40% | 10% | 15% | 0.15 |
| 3人目 | 30 | 60% | 15% | 30% | 0.30 |
| 4人目 | 40 | 80% | 20% | 50% | 0.50 |
| 5人目 | 100 | 100% | 50% | 100% | 1.00 |
数式に代入する際は、パーセントではなく小数(0から1の値)を使います。右端の列が計算用の値です。
この表から、(0, 0), (20, 5), (40, 15), (60, 30), (80, 50), (100, 100) を結ぶとローレンツ曲線になります。
「下位80%の人が全所得の50%を占めている」と読み取れます。残り20%(5人目)が全所得の50%を独占しているため、かなりの偏りがあります。
完全平等線なら (80, 80) のはずが (80, 50) なので、曲線が大きく下に膨らんでいることが分かります。
ジニ係数とは
ローレンツ曲線は視覚的にわかりやすいですが、「社会Aと社会Bではどちらが不均等か」を正確に比べるには、数値が必要です。
ジニ係数(Gini coefficient)は、ローレンツ曲線と完全平等線の間の面積を使って格差を1つの数値にまとめます。
- :完全平等線とローレンツ曲線の間の面積
- :ローレンツ曲線と横軸の間の面積
- :完全平等線の下の三角形の面積。横軸・縦軸の最大値がそれぞれ1(100%)なので、底辺1×高さ1÷2 =
つまり です。また、 なので とも書けます。この形が台形公式での計算に使われます。
| ジニ係数 | 意味 |
|---|---|
| 完全平等(全員が同額) | |
| 完全不平等(1人が全所得を独占) | |
| 値が大きいほど格差が大きい |
ジニ係数の計算方法
方法1:台形公式
ローレンツ曲線の下の面積 を、隣り合う2点を結ぶ台形の和として近似し、 で計算します。
人のデータを小さい順に並べ、累積所得割合を とすると、
方法2:直接公式
データを小さい順に と並べたとき、ジニ係数は次の式でも求められます。
台形公式と同じ結果になりますが、累積割合を計算する手間が省けるため、手計算では便利です。 は「順位が高い(所得が大きい)ほど重みが大きくなる」構造で、不均等の度合いを捕えています。
計算例
先ほどの5人のデータ(10, 20, 30, 40, 100、合計200)で計算します。
台形公式
直接公式
どちらの方法でも が得られます。
解釈の目安
ジニ係数は国・地域の所得格差を比較する際によく使われます。一般的な目安は次のとおりです。
| ジニ係数の範囲 | 格差の程度 | 例 |
|---|---|---|
| 0.25 未満 | 均等に近い | 北欧諸国 |
| 0.25〜0.35 | 比較的均等 | 西欧・日本 |
| 0.35〜0.45 | 中程度の格差 | アメリカ・中国 |
| 0.45 以上 | 格差が大きい | 南アフリカ・ブラジル |
上記は世帯所得で見た場合のおおまかな目安です。所得の種類(税前・税後)、世帯単位か個人単位かによって値が変わります。
よくある誤解
- 誤解1:ジニ係数が同じなら分布も同じ — ジニ係数は1つの数値で格差を要約するため、同じジニ係数でも分布の形が異なることがあります。ローレンツ曲線の形が異なっていても、面積が同じなら同じジニ係数になります。
- 誤解2:ジニ係数は所得にしか使えない — ジニ係数はどんな「分配」にも使えます。資産、学力テストの得点分布、企業の市場シェアなど、不均等さを測りたいデータ全般に適用できます。
まとめ
ローレンツ曲線は、データを小さい順に並べて「下位X%が全体のY%を占める」を描いたグラフです。完全平等線(45度線)との乖離が大きいほど、格差が大きいことを示します。
ジニ係数はローレンツ曲線と完全平等線に囲まれた面積から算出される、0から1の値です。0が完全平等、1が完全不平等を意味します。
ジニ係数は格差を国際比較する際に広く使われる指標ですが、単独ではなくローレンツ曲線と組み合わせることで、格差の性質(低所得層間か高所得層間か)まで読み取れます。