指数化と成長率(幾何平均)

「掛け算で積み重なるデータ」に合った平均と、基準時点で揃える比較法

難易度 Lv 3 / 10想定時間:約20

できるようになること


「年平均10%成長」は本当か

ある企業が、1年目に+50%、2年目に−30%の売上変動を経験しました。

算術平均で成長率を求めると、(+50%+(30%))/2=+10%(+50\% + (-30\%)) / 2 = +10\% です。

これだけ見ると「年平均10%成長した」と言えそうです。しかし実際に計算してみましょう。

100万円の売上が1年目に50%増えると150万円、2年目に30%減ると105万円です。 2年間で100万円 → 105万円ですから、実際の成長率は2年間でわずか5%。年平均に直すと約2.5%にすぎません。

算術平均の+10%は過大評価です。 なぜこうなるのでしょうか。

足し算の平均が使えないデータ

算術平均は「足し算で積み重なる」データに適した平均です。

テスト5回の平均点、毎日の気温の平均 — これらは「合計 ÷ 個数」で意味のある代表値になります。

一方、成長率や利回りは「掛け算で積み重なる」データです。

100×1.50×0.70=105100 \times 1.50 \times 0.70 = 105

売上の推移は「前年 × 倍率」の積で決まります。このような「掛け算の世界」に足し算の平均を持ち込むとズレが生じます。

幾何平均とは

掛け算で積み重なるデータには、幾何平均(geometric mean)を使います。

nn 個の正の値 x1,x2,,xnx_1, x_2, \ldots, x_n の幾何平均は、

G=(x1x2xn)1/n=(i=1nxi)1/nG = (x_1 \cdot x_2 \cdot \ldots \cdot x_n)^{1/n} = \left(\prod_{i=1}^{n} x_i\right)^{1/n}

算術平均が「足してから nn で割る」のに対し、幾何平均は「掛けてから nn 乗根を取る」操作です。

補足

対数を取ると、積が和に変わります。logG=1ni=1nlogxi\log G = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} \log x_i なので、「対数を取って算術平均を求め、指数関数で元に戻す」という手順でも幾何平均が得られます。値が大きい場合や個数が多い場合に便利です。

例:年平均成長率を幾何平均で求める

先ほどの企業(1年目 +50%、2年目 −30%)を幾何平均で計算します。

まず成長率を「倍率」(1+1 + 成長率)に直します。+50% → 1.50、−30% → 0.70 です。幾何平均の公式に代入する xix_i は、成長率そのもの(0.50 や −0.30)ではなく、この倍率です。

G=(1.50×0.70)1/2=(1.05)1/2=1.051.0247G = (1.50 \times 0.70)^{1/2} = (1.05)^{1/2} = \sqrt{1.05} \approx 1.0247

年平均倍率は約 1.0247、つまり年平均成長率は約 +2.47% です。

検算します。100×1.02472100×1.05=105100 \times 1.0247^2 \approx 100 \times 1.05 = 105 で、実際の最終値と一致します。

もう一つの例:3年間の成長率

ある国のGDP成長率が、1年目 +3%、2年目 +5%、3年目 +1% だったとします。

倍率に直すと 1.03、1.05、1.01 です。

G=(1.03×1.05×1.01)1/3=(1.092315)1/31.02990G = (1.03 \times 1.05 \times 1.01)^{1/3} = (1.092315)^{1/3} \approx 1.02990

年平均成長率は約 +2.99% です。算術平均の 3.0%3.0\% とほぼ同じですが、これは変動幅が小さいためです。変動が大きくなるほど両者の差は開きます(次節参照)。

算術平均 ≥ 幾何平均

正の値に対して、常に次の関係が成り立ちます。

算術平均幾何平均\text{算術平均} \geq \text{幾何平均}

等号が成り立つのは、すべての値が等しいとき(変動ゼロ)だけです。変動が大きいほど、算術平均と幾何平均の乖離は広がります。

このため、成長率を算術平均で計算すると常に過大評価になります。先ほどの例(算術平均 +10% vs 幾何平均 +2.47%)は、その極端なケースにあたります。

指数化とは

幾何平均は、指数化されたデータから年平均変化率を求める際にも使います。まず指数化の考え方を整理しましょう。

GDP、物価、株価など、値の大きさが全く異なるデータを並べても、そのままでは変化の度合いを比較できません。

そこで、ある時点を基準(= 100)として、他の時点の値を基準からの比で表す方法が指数化(indexing)です。

指数=当該時点の値基準時点の値×100\text{指数} = \frac{\text{当該時点の値}}{\text{基準時点の値}} \times 100

例:消費者物価指数(CPI)

消費者物価指数(CPI)は、標準的な商品・サービスの組合せ(消費バスケット)の費用を基準年 = 100 として指数化したものです。

消費バスケットの費用(円)CPI(2020年=100)
202010,000100.0
202110,200102.0
202210,600106.0
202311,000110.0

CPI が 110.0 であれば、「2020年と比べて物価が10%上昇した」と直感的に読み取れます。

指数化の使いどころ

指数化は以下の場面でよく使われます。

異なるスケールのデータを「基準時点からの変化率」に統一できるため、系列間の比較が容易になります。

指数化と幾何平均の関係

指数化されたデータから年平均変化率を求めるとき、幾何平均が活躍します。ビジネスや金融の実務ではこの値を CAGR(Compound Annual Growth Rate:年平均成長率)と呼びます。

例えば、上の表でCPIが3年間で100 → 110 に変化しました。毎年の倍率(102100×106102×110106\frac{102}{100} \times \frac{106}{102} \times \frac{110}{106})を掛け合わせると、途中の年の値が約分されて消え、110100\frac{110}{100} だけが残ります。そのため、始点と終点だけで計算できます。

G=(110100)1/3=(1.10)1/31.0323G = \left(\frac{110}{100}\right)^{1/3} = (1.10)^{1/3} \approx 1.0323

年平均の物価上昇率は約 +3.23% です。

注意

始点と終点の比を使う場合、期間数は「データ点の数 − 1」です。4つのデータ点(2020〜2023年)があれば、変化が起きた期間は3つなので 1/31/3 乗を取ります。

よくある誤解

注意
  • 誤解1:成長率の平均は算術平均で出せる — 成長率は掛け算で積み重なるため、算術平均では過大評価になります。幾何平均を使ってください。
  • 誤解2:指数の差がそのまま変化率になる — 指数が110から120に上がったとき、「10%上昇」ではありません。変化率は 120/1101.091120/110 \approx 1.091 なので約 9.1%です。指数の差(10ポイント)と変化率(%)は異なるので、常に比で計算してください。

まとめ

成長率や利回りなど「掛け算で積み重なるデータ」の平均には、算術平均ではなく幾何平均を使います。

G=(x1x2xn)1/nG = (x_1 \cdot x_2 \cdot \ldots \cdot x_n)^{1/n}

算術平均は常に幾何平均以上になるため、成長率を算術平均で計算すると過大評価になります。

一方、異なるスケールのデータを比較するには指数化(基準時点 = 100)が有効です。指数化されたデータから年平均変化率を求める際にも、幾何平均を用います。