指数化と成長率(幾何平均)
「掛け算で積み重なるデータ」に合った平均と、基準時点で揃える比較法
できるようになること
- 算術平均が成長率・比率に不適切な理由を説明できる
- 幾何平均を計算し、年平均成長率を求められる
- 基準時点を100に揃える「指数化」の手法を理解し、系列を比較できる
「年平均10%成長」は本当か
ある企業が、1年目に+50%、2年目に−30%の売上変動を経験しました。
算術平均で成長率を求めると、 です。
これだけ見ると「年平均10%成長した」と言えそうです。しかし実際に計算してみましょう。
100万円の売上が1年目に50%増えると150万円、2年目に30%減ると105万円です。 2年間で100万円 → 105万円ですから、実際の成長率は2年間でわずか5%。年平均に直すと約2.5%にすぎません。
算術平均の+10%は過大評価です。 なぜこうなるのでしょうか。
足し算の平均が使えないデータ
算術平均は「足し算で積み重なる」データに適した平均です。
テスト5回の平均点、毎日の気温の平均 — これらは「合計 ÷ 個数」で意味のある代表値になります。
一方、成長率や利回りは「掛け算で積み重なる」データです。
売上の推移は「前年 × 倍率」の積で決まります。このような「掛け算の世界」に足し算の平均を持ち込むとズレが生じます。
幾何平均とは
掛け算で積み重なるデータには、幾何平均(geometric mean)を使います。
個の正の値 の幾何平均は、
算術平均が「足してから で割る」のに対し、幾何平均は「掛けてから 乗根を取る」操作です。
対数を取ると、積が和に変わります。 なので、「対数を取って算術平均を求め、指数関数で元に戻す」という手順でも幾何平均が得られます。値が大きい場合や個数が多い場合に便利です。
例:年平均成長率を幾何平均で求める
先ほどの企業(1年目 +50%、2年目 −30%)を幾何平均で計算します。
まず成長率を「倍率」( 成長率)に直します。+50% → 1.50、−30% → 0.70 です。幾何平均の公式に代入する は、成長率そのもの(0.50 や −0.30)ではなく、この倍率です。
年平均倍率は約 1.0247、つまり年平均成長率は約 +2.47% です。
検算します。 で、実際の最終値と一致します。
もう一つの例:3年間の成長率
ある国のGDP成長率が、1年目 +3%、2年目 +5%、3年目 +1% だったとします。
倍率に直すと 1.03、1.05、1.01 です。
年平均成長率は約 +2.99% です。算術平均の とほぼ同じですが、これは変動幅が小さいためです。変動が大きくなるほど両者の差は開きます(次節参照)。
算術平均 ≥ 幾何平均
正の値に対して、常に次の関係が成り立ちます。
等号が成り立つのは、すべての値が等しいとき(変動ゼロ)だけです。変動が大きいほど、算術平均と幾何平均の乖離は広がります。
このため、成長率を算術平均で計算すると常に過大評価になります。先ほどの例(算術平均 +10% vs 幾何平均 +2.47%)は、その極端なケースにあたります。
指数化とは
幾何平均は、指数化されたデータから年平均変化率を求める際にも使います。まず指数化の考え方を整理しましょう。
GDP、物価、株価など、値の大きさが全く異なるデータを並べても、そのままでは変化の度合いを比較できません。
そこで、ある時点を基準(= 100)として、他の時点の値を基準からの比で表す方法が指数化(indexing)です。
例:消費者物価指数(CPI)
消費者物価指数(CPI)は、標準的な商品・サービスの組合せ(消費バスケット)の費用を基準年 = 100 として指数化したものです。
| 年 | 消費バスケットの費用(円) | CPI(2020年=100) |
|---|---|---|
| 2020 | 10,000 | 100.0 |
| 2021 | 10,200 | 102.0 |
| 2022 | 10,600 | 106.0 |
| 2023 | 11,000 | 110.0 |
CPI が 110.0 であれば、「2020年と比べて物価が10%上昇した」と直感的に読み取れます。
指数化の使いどころ
指数化は以下の場面でよく使われます。
- 物価指数(CPI、企業物価指数):基準年 = 100 で物価の変動を追跡
- 株価指数(日経225、S&P500):構成銘柄の価格変動を指数で表現
- GDP指数:実質GDPの推移を基準年で比較
- 売上や来客数:特定の月を100として季節変動を把握
異なるスケールのデータを「基準時点からの変化率」に統一できるため、系列間の比較が容易になります。
指数化と幾何平均の関係
指数化されたデータから年平均変化率を求めるとき、幾何平均が活躍します。ビジネスや金融の実務ではこの値を CAGR(Compound Annual Growth Rate:年平均成長率)と呼びます。
例えば、上の表でCPIが3年間で100 → 110 に変化しました。毎年の倍率()を掛け合わせると、途中の年の値が約分されて消え、 だけが残ります。そのため、始点と終点だけで計算できます。
年平均の物価上昇率は約 +3.23% です。
始点と終点の比を使う場合、期間数は「データ点の数 − 1」です。4つのデータ点(2020〜2023年)があれば、変化が起きた期間は3つなので 乗を取ります。
よくある誤解
- 誤解1:成長率の平均は算術平均で出せる — 成長率は掛け算で積み重なるため、算術平均では過大評価になります。幾何平均を使ってください。
- 誤解2:指数の差がそのまま変化率になる — 指数が110から120に上がったとき、「10%上昇」ではありません。変化率は なので約 9.1%です。指数の差(10ポイント)と変化率(%)は異なるので、常に比で計算してください。
まとめ
成長率や利回りなど「掛け算で積み重なるデータ」の平均には、算術平均ではなく幾何平均を使います。
算術平均は常に幾何平均以上になるため、成長率を算術平均で計算すると過大評価になります。
一方、異なるスケールのデータを比較するには指数化(基準時点 = 100)が有効です。指数化されたデータから年平均変化率を求める際にも、幾何平均を用います。